タイトル:『曲者上等!』

 

〈キャッチコピー〉

 鬼退治にやってきた桃太郎と、鬼にされた少女が出会って始まる、痛快冒険活劇。

 

〈登場人物〉

斎藤桃太郎(さいとう・ももたろう)

天下無双の剣の使い手。

口は悪いが腕は良い。

左目に眼帯をしており、さかやきも剃らずに結いあげた髪は脱色して薄茶色い。

ぼろぼろで袖の破れた着物に、つぎの当たった袴。下駄の鼻緒は、切れたのを挿げ替えたらしく、左右で色違い。

釣り上った眼に極太の筆で描いたような眉。感情がすぐに顔に出る。

 

 

江戸川鉄斎(えどがわ・てっさい)

痩せて青白い顔をした青年。

ザンギリ頭に切れ長の目、切れたナイフのような印象。

 袴も衣も色あせてばさばさ。首から帳面と筆筒を下げている。懐には常に黒メガネを忍ばせている。知能犯。おまけに爆弾魔。

 

扇月丸(おうぎ・つきまる)

忍者。

小柄で華奢だが、握力と瞬発力ならだれにも負けない。短く刈った髪、くるくるとよく回る眸。

陽気でおしゃべり。

 

狂花(きょうか)

女形。

一見すると傾国の美女、といった風情だが、実態は岩をも砕く剛力の持ち主。

白地に派手な赤い牡丹の小袖。切り髪をぞんざいに結って、半分は背に流している。

右の目もとに泣きぼくろ。左の内腿に入れ墨がある。

 

 

千歳(ちとせ)

山に棲む少女。

キリシタン。

長い前髪と布で常に顔を隠している。

 南蛮人とのハーフで、その瞳は青い。

 

仁太(じんた)

千歳の弟。

 口がきけない。

 

カシラ

忍組のカシラ。

キリシタンの財宝を狙っている。

財力をつけて、隣近所に戦を吹っかけようと目論む殿にせっつかれている。

悲しき中間管理職。

 

忍組(しのびぐみ)

カシラの部下。

みんな同じデザインなので、何人いるかわかりません。

 

〈あらすじ〉

 ときは戦国。

旅の侍・桃太郎とその仲間は、立ち寄った村で不本意ながら食い逃げ犯として逃亡することになってしまう。

 捕らえられた桃太郎に、役人につきだす代わりにと村長が頼んだのは何と「鬼退治」。

山に棲む鬼に、村人たちは怯えていたのだ。

 不平を言いながらも山に入った桃太郎たち。足を滑らせて崖から転落してしまうが、山に隠棲する謎めいた少女、千歳と、その弟・仁太に助けられる。

 千歳の家で夜を明かすことにした一行だったが、鬼の噂に心は落ち着かない。

そして桃太郎は、千歳が夜中に何処かへ出かける姿を目撃する。不審に思い、後をつける桃太郎。

 千歳が向かった先は、洞窟に作られたキリシタンの礼拝堂。

 千歳はその身に流れる異人の血のため、またキリシタンの財宝を守るために山に隠れ住んでいたのだった。

「山に棲む鬼」は村人の勘違いだったと推理し、胸をなでおろす桃太郎たち。

しかしそれも束の間、財宝を狙う者どもによって、千歳の弟・仁太が連れ去られてしまう。

救出に向かう一行。財宝を狙う殿様の城に乗りこんでいくのだった。

仁太を無事救出し、財宝を守り切った桃太郎たち。

すべてが片付いたとき、千歳は山を下りて人の間で生きていく決心をする。

 

 

  ○村の食堂

 

  昼下がりの食堂。特に流行っている様子もなく、客はまばら。

  給仕の娘が、両手にお盆を載せて危なっかしく運んでくる。

 

娘:たぬきそばきつねそばちからうどん、花見団子に栗ぜんざい、お待たせしましたー・・・・

 

テーブルひとつ占領して、山と積まれた料理。その向こうに座り、鬼気迫る勢いで食い物をかき込んでいく桃太郎たち。

  娘、ひきつった笑顔で料理を並べ、そそくさと裏に引っ込む。

 

  月丸、天ぷらうどんの海老をしっぽごと噛み砕き、出汁を一息に飲み干す。

  

月丸:・・・・ッあー、生き返ったァ!

 

  どさり、と座敷に仰向けに倒れ込む月丸。

  その横で、狂花は葛きりなんかを世にも上品に食べている。

  鉄斎は一見ゆっくり食べているように見えて、ものすごいスピードで周囲の皿を空にしてゆく。食べ終わった魚は標本にしたいほどきれいに骨のみ残している。

  桃太郎は未だに黙々とドンブリ飯をがっついている。

 

月丸:三日ぶりの飯は染みるねエ〜・・・

鉄斎:久しぶりの仕事だったからな。これでしばらくは宿に泊まれるぞ。

狂花:アタシはその前に、お風呂に入りたいねえ・・・

桃太郎:・・・・・・(食っている)

狂花:しかしまあ、よくもこんなに食べたもんだよ。大丈夫なのかい?

鉄斎:なあに、懐は暖かいんだ。このくらい・・・・お?

 

  懐を探って財布を出そうとした鉄斎、異変に気づき身体をパタパタと探る。

 

狂花:・・・・ちょいと。アンタまさか・・・

月丸:まさか?

鉄斎:・・・・・(冷汗)まさか。

 

  ○表通り

 

町人:食い逃げだ―――!

 

  道行く人々を跳ね飛ばして疾走する桃太郎たち。

 

狂花:なんで財布落としたりするのさァ!

鉄斎:いつもより重かったから、余計に重力がかかったのだ。財布は重ければ重いほど落としやすいものなのだ。

月丸:言い訳になってないっすよ鉄斎のアニキ!

桃太郎:・・・・(走りながら食っている)

 

  その後ろを包丁片手に追いかけてくるのは食堂の親父と従業員数名。

 

親父:待ちやがれ!

狂花:(桃太郎に)いつまで食ってんだい!

 

  桃太郎、食い終わったどんぶりを肩越しに投げ捨てる。親父がよけて、後ろの若いのに直撃。

倒れる従業員。

進行方向は行きどまりで、左右に路地が伸びている。

 

鉄斎:いいか、いち、にの、さんで分かれるぞ。

月丸:合点!

鉄斎:いち、にの、さん、散れ!

 

  鉄斎と狂花は左手、月丸は正面の板塀を飛び越える。

  右手に折れようとした桃太郎、角を曲がってきた少年と正面衝突。

 

桃太郎:うわっ!

 

  少年の持っていた荷物が散らばる。

  すかさずコケた桃太郎に飛びかかる人々。

 

物陰に隠れてそれを見ている狂花、鉄斎。

樹の枝からぶら下がった月丸。

 

狂花:あちゃあ・・・

月丸:どうしやす?

鉄斎:・・・・様子を見よう。

 

  ○食堂

 

  縄で縛られ、土間に転がされる桃太郎。

  ふてぶてしく親父を睨みつける。

  それをとり囲むように従業員たち、野次馬。

 

親父:この野郎、手間ァかけさせやがって。

従業員:おやっさん、コイツどうします?

親父:役人につきだそう。食い逃げは腕を切り落とすことに決まっとる。

桃太郎:何!?手前、この縄ほどきやがれ!

 

  桃太郎、縄を噛み切ろうとしたりして暴れる。それを抑えつけようとする従業員たち。

そこへ、野次馬をかき分けて老人がやってくる。

 

村長:なんの騒ぎかな。

親父:食い逃げでさァ。今から役人に突き出しに行こうと・・・

桃太郎:放せ!あれっぽっちの食いもんで腕持ってかれてたまるかよ!

親父:じゃかあしいわい。店のモンほとんど食っちまいやがって!

村長:(親父に)まあ待て。

(桃太郎に)助けてやらんこともないぞ。

桃太郎:あ?

親父:村長!?

村長:お主、見たところ侍のようじゃな。

桃太郎:それがどうした。

村長:腕は確かか?

桃太郎:この縄ほどいてくれりゃ、いくらでも見せてやるぜ。

村長:ふうむ・・・ま、よかろ。縄をほどいてやりなさい。

親父:村長!?

村長:その代わり、お主に頼みたいことがある。

桃太郎:頼み?

 

  ○食堂/座敷

 

  縄を解かれた桃太郎、座敷に村長と差し向かいで座っている。

  その周りを取り囲むように食堂の人々、野次馬。

  警戒しているのか、数人の従業員が桃太郎の頭に向かって包丁を突き付けている。

  桃太郎の刀は、店の親父に取り上げられている。

 

桃太郎:鬼退治ィ!?

村長:そうだ。

 だいぶ前から鬼が山に棲んどるっちゅう噂はあったんじゃがの。それが最近になって、人を襲うようになったのじゃ。この頃ではここいらの者は滅多に山に入らない。隣村との行き来も陽のある内しかできなくなっていて、難儀しておるのだ。

桃太郎:ふうん・・・・で、その鬼ってのはどんなだ。

親父:全身真っ黒で樹の上を飛び歩き、長くて鋭い爪で切りかかって来るんだと。

村人:俺のお袋もそいつに襲われたんだ。命からがら逃げて来たんだが、よっぽど恐ろしかったのか、寝込んじまった。

村人:俺が見たのは女の小鬼だったぞ。

村人:いや、見上げるような大男だったぞ。目が爛爛と輝いてて・・・

 

  俺も俺も、と目撃証言を噂する村人たち。

 

村長:山に入って行方の知れなくなった者もおる。そこで、だ。

桃太郎:俺に、その鬼を退治しろってんだな。

村長:できるか?

桃太郎:・・・・面倒臭ェなあ・・・

従業員:はン。こんな食い逃げ野郎にゃ無理だぜ。鬼に食い殺されっちまうのがオチだ。

 

桃太郎、カチンと来たらしく、片目を細める。

 

桃太郎の姿がかき消えた、次の瞬間。

金属音がして刃が閃く。

いつの間にか座敷から抜け出したのか、土間に着地する桃太郎、野次馬に背を向けたまま刀を鞘におさめる。

親父、手に持っていたはずの刀がないのに気付く。

 

親父:え?あ!

 

従業員たちが付きつけていた包丁が、真ん中から切断されて滑り落ち、畳に刺さる。

息をのむ野次馬たち。

 

桃太郎:仕方ねえ。飯の代金だ。引き受けてやるよ。

 

  ○山道

 

  ひとり山道を行く桃太郎。腰の高さほどもある熊笹の薮をかき分けて歩く。

 

桃太郎:こりゃほとんど獣道じゃねえか・・・・やっぱりバックレちまうか?

鉄斎:ここから街道に出るにはこの山を越えるか、さもなきゃ戻って村を通り抜けるしかない。どっちにしろ今からじゃ日がくれちまうだろうな。

 

  いつの間に追い付いたものか、鉄斎が桃太郎の横に並ぶ。

  狂花、月丸も現れる。

 

桃太郎:あっ、手前ら・・・・自分たちだけ逃げやがって。

狂花:捕まるアンタが間抜けなんだよゥ。

桃太郎:何だとう!?

月丸:それにしても、どうしやす?じき夜になっちまう。

鉄斎:しょうがない、ここいらで野宿にするか。

狂花:また野宿かァ・・・・

 

  その時、ガサガサと音がして、薮がゆれる。

  身構える桃太郎たち。

  薮をかき分けて現れたのは、先ほど桃太郎とぶつかった少年(仁太)だった。

 

仁太:あ!

桃太郎:手前さっきの!

 

  仁太、背を向けて逃げ出す。追いかける桃太郎。

 

桃太郎:待ちやがれ!

鉄斎:おい桃太郎!

 

  桃太郎に続く鉄斎たち。月丸は樹上を猿のように渡る。

 

桃太郎:人にぶつかっといて挨拶もなしたぁ良い度胸だ!

狂花:そいつぁ逆恨みだよゥ。

月丸:逆恨みでんな。

桃太郎:うるせえ!

 

  桃太郎がもう少しで襟首をつかもうというところで、少年の姿がかき消える(実は草むらに身を沈めて、脇へ逸れただけだが、桃太郎には一瞬にして消えたように見える)。

 

桃太郎:お?

 

  急には止まれない桃太郎。踏み出した先には地面がなかった。

  断崖絶壁である。

  桃太郎、崖から落ちそうになるが、間一髪踏みとどまる。

 

桃太郎:・・・・とっとっとっと!

鉄斎:っと!

狂花:ちょっと!急に止まったら危ないじゃないか・・・・い?

桃太郎:おおおおお?

 

  あとから来た鉄斎、狂花がぶつかり、大きく傾く桃太郎。慌てて伸ばした手で思わず頭上の月丸につかまるが、三人分の体重をかけられて、月丸の乗った細枝がぽっきり折れる。おまけに崖が落盤を起こし・・・・

 

桃太郎:おわーッ!

狂花&鉄斎:この馬鹿―ッ!

 

  間抜けな悲鳴を上げて落下していく桃太郎一行。

 

 

  ○千歳の家/座敷

 

  桃太郎、目を覚まし飛び起きる。布団に寝かされ、傷の手当てがされている。

  額に濡れ手拭いを置こうとしていたらしい仁太が、驚いて硬直している。

 

桃太郎:お前・・・

 

  襖をあけて、千歳が顔を出す。長く伸ばした前髪と目深な姉さん被りが顔を半分以上隠している。

 

千歳:あ、気がついたんですね。良かった。

 

  仁太、走って行って千歳の背中に隠れてしまう。

  その後ろから、狂花も顔を覗かせる。

 

狂花:ようやく起きたのかい。

桃太郎:ここは・・・

鉄斎:千歳さんの家だ。

 

  鉄斎、となりの居間に座ったまま、桃太郎の方を見もせずに言う。その横で月丸もお茶を飲んでいる。

  桃太郎、千歳の顔を見る。

  千歳、にっこりとほほ笑む。

 

  ○千歳の家/居間

 

  桃太郎、鉄斎、狂花、月丸、囲炉裏を囲んで食事をしている。

  千歳、鍋から味噌汁をよそうと、お椀を桃太郎に手渡す。

 

千歳:先ほどは、弟がご迷惑をおかけしたようで・・・

桃太郎:いや・・・

鉄斎:あれは元はと言えばこちらが悪い。

狂花:桃太郎がいけないのサ。

月丸:気にしなくていいっすよ。こんなのが追いかけてきたら子どもは普通逃げまさぁ。

 

  桃太郎、月丸をポカンと殴る。

 

鉄斎:それにしても、すみませんね。助けてもらった上に食事まで。

千歳:いいえ。困ったときはお互い様ですから。

 

  桃太郎、室内を見回す。簡素だが作りのしっかりした住まいである。

土間では仁太が遊んでいる。

 

桃太郎:ここは、あんたと弟の二人住まいなのか?

千歳:ええ。

鉄斎:千歳さんは、ご両親を亡くされて以来ここで暮らしてるんだそうだ。

狂花:お前が寝こけてる間に自己紹介は済んじまったんだよ。

 

  桃太郎、バツの悪そうな顔で黙り込む。

 

千歳:里に親類縁者もいないものですから。両親の遺してくれた畑を耕して、何とか暮らしております。

桃太郎:・・・そうか。

月丸:おかわり!

狂花:恥ずかしいねえ。ちっとは遠慮しなよ。

 

  千歳、その様子を見てクスクスと笑う。

 

千歳:すみません。こんなににぎやかなのは久しぶりだなって。

 

  千歳、月丸の差し出した茶碗を受け取って、

 

千歳:まだたくさんありますから、どんどん食べてくださいね。

 

  顔を見合す狂花と鉄斎。

 

狂花:じゃあ・・・・

鉄斎:遠慮なく。

 

  二人も我慢していたらしく、ニュッと茶碗を差し出す。

  桃太郎も一息に味噌汁を飲み干し、椀を突きだす。

  千歳、突き出された四本の腕にきょとんとするが、すぐに満面の笑みになる。

 

 

  ○千歳の家/座敷

 

  先ほど桃太郎が寝かされていた部屋に三組、その次の間に一組の布団が敷かれている。こちらに鉄斎・月丸・桃太郎、次の間に狂花が休んでいる。

 

月丸:ふあ〜、食った食った・・・

狂花:美味い飯に乾いた布団。極楽だねェ。

桃太郎:おい狂花。なんでお前だけ一人部屋なんだ?

狂花:野暮なことお言いでないよ。

鉄斎:それにしても・・・・

 

  鉄斎、布団の上に胡坐をかいて考え込む様子。

 

桃太郎:どうした?

鉄斎:いや、妙だな、と。

桃太郎:何がだよ。

鉄斎:こんな山奥に、若い女と子どもの二人暮らし。ちょっと不自然だよな。

桃太郎:不自然ったって、住んでるもんはしょうがねえじゃねえか。両親が死んじまったって、さっきお前も聞いただろ。

鉄斎:・・・・・・。

狂花:・・・・なんか、昔話であったよねェ、こういうの。山奥で道に迷ってさ、山道に一軒家があるのを見つけるの。

こんばんは、一晩宿をお願いできませんかってさ・・・・

鉄斎:・・・これで夜中に包丁研ぐ音でもしてきたら、本格的だな。

月丸:そういえば、なんだってあんな被りもんしてるんですかね。

 なんか、頭を隠してる・・・・みたいな・・・・(言いながらだんだん怖くなってくる)まさか、あれを外すと角がニューっと・・・・

千歳:あのう、

一同:うわあっ!

 

  急に声をかけられ、驚いて飛び上がる桃太郎たち。

  いつの間に入ってきたのか、千歳が背後に立っている。

 

千歳:着替え、ここに置きますから。

桃太郎:あ、ああ・・・

鉄斎:すみませんね、何から何まで。

桃太郎:おい、お前さんたちはどこで寝るんだ?俺らは雑魚寝でも構わねえんだぞ。

千歳:いえ、大丈夫ですよ。囲炉裏端で寝ますから。お客様を雑魚寝なんてさせられません。

それに、やっぱり女の方も同じ部屋ってわけには・・・

 

  千歳、狂花を見る。

 

桃太郎:あ、いやコイツは・・・

 

  狂花、肘鉄を打ち込んで桃太郎を黙らせる。

  腹を押さえてうずくまる桃太郎。

 

狂花:では、お言葉に甘えさせてもらいましょうかねェ。

千歳:はい・・・・あの(桃太郎を指して)、大丈夫・・・ですか?

鉄斎&狂花&月丸:大丈夫大丈夫。

千歳:そうですか。では、おやすみなさい。

鉄斎&狂花&月丸:おやすみなさ〜い!

 

  千歳が出ていくのを見送る一同。襖がしまるのを確認して、胸をなでおろす。

 

鉄斎:・・・・・聞かれたかな?

狂花:さあ・・・

 

  襖の隙間から、仁太が桃太郎たちをじっと見ている。

 

  ○千歳の家/客間(深夜)

 

  怖い怖いと言った割には熟睡している狂花たち。

  桃太郎、ムクリと起き上がる。

 

桃太郎:・・・・便所・・・。

 

  寝間着のまま外に出る。用を足して戻ろうとすると、家から千歳が出てくるのが見える。寝間着ではない。

 

桃太郎:千歳・・・?

 

  桃太郎、「長い髪の女の鬼」という村人の証言が頭をよぎる。

  しばし迷った後、静かに後をつけてゆく桃太郎。

 

  ○山道(深夜)

 

  千歳、明かりもない山道を淀みない足取りで歩いていく。

  遅れて歩く桃太郎、物陰から様子を窺う。

 

桃太郎:こんな夜中に一体どこへ・・・?

 

  山道をしばらく行くと、少し開けたところに出る。それは昼間桃太郎たちが落っこちた崖の真下である。

 

桃太郎:ここ、昼間の・・・

 

  よく見ると岩壁に洞窟の入口がある。

千歳、その中に入っていく。

桃太郎も続けて入る。

 

○洞窟

 

  真っ暗な中を手さぐりで歩く桃太郎。しばらく行くと、奥からぼんやりと明かりがもれてくる。

  洞窟の突き当たり。そこは、一際広い空間になっている。

  高い天井の下、無数のロウソクの灯がゆれている。

  それは、祭壇である。

  洞窟の壁を穿つようにして聖母像が刻まれている。その前に膝まずいて祈る千歳。

  桃太郎、思わずつぶやく。

 

桃太郎:なんだ、こりゃあ・・・?

 

驚いて振り向く千歳。首から下げたロザリオが揺れる。

被り物の下の瞳の色に、桃太郎は息をのむ。

それは、鮮やかな青色である。

千歳、我に返り、慌てて顔を手で蔽う。

 

桃太郎:その眼・・・・

 

  桃太郎、ずかずかと近づいて、千歳の顔を上げさせる。

 

桃太郎:・・・・・異人、か?

鉄斎:キリシタンだね。

 

  鉄斎、祭壇の前にしゃがみこんでつぶさに見ている。

 

桃太郎:手前、いつの間に・・・

鉄斎:千歳さんは、南蛮人と日本人の合いの子なんじゃないかな。違う?

千歳:・・・・・。

鉄斎:たぶん、村の人が言ってた鬼は、南蛮人を見間違えたんじゃないかな。

桃太郎:そうなのか?

千歳:・・・・私の父は、宣教師でした。キリシタンの教えを広めるために海の向こうから来て、日本で母と出会ったと・・・

桃太郎:じゃあ、なんでこんな山奥に隠れ住んでるんだ?

千歳:・・・・・・前は、大きな町で布教していたんだそうです。でも・・・・

鉄斎:でも?

千歳:妙な奴らが来て、町にいられなくなったんだって。そいつらはキリシタンの宝を狙っているんだって。

桃太郎:宝!?

千歳:父は、「キリシタンにとって大切なものだから絶対あいつらに渡してはならない」と・・・・

鉄斎:それでこんな山奥に隠れてたわけか。

千歳:それが十五年ほど前のことだそうです。私と弟はこの山で生まれ育ちました。母は弟を産んですぐ亡くなり、父は二年前に病で・・・

鉄斎:千歳さん、山を下りたことないんですか?一度も?

千歳:それは・・・・

 

  千歳、顔を逸らしうつむく。

 

鉄斎:・・・その眼のせいですか。

 

  ○回想

 

  子供のころの千歳。前髪も眉で切り揃え、被り物もしていない。

  谷川の岸辺で、ひとり毬をついて遊んでいる。

  そこへ、旅姿の男がやってくる。

  千歳のついていた毬が、男の足元まで転がっていく。拾い上げる男。

  千歳、男に駆け寄り、礼を言おうとするが、千歳の顔を見た男はみるみる青ざめる。毬が男の手から転げ落ちる。

 

男:ばッ・・・化け物・・・!

 

  男、一目散に逃げ出す。

  放り出された毬が千歳の足元まで転がってくる。

  千歳、川面に映った己の顔を見る。

  (回想終了)

 

  ○洞窟

 

桃太郎:馬ッ鹿馬鹿しい。いいじゃねえか、眼の色が違うくらい。

千歳:・・・・怖くないんですか?

桃太郎:別に。

鉄斎:怖くはないね。珍しいなとは思うけど。

千歳:・・・そんなこと言われたの、初めて・・・

鉄斎:まあ、知らない人が見たらビックリするかも知れないね。

桃太郎:こんな田舎にいるからいけねえんだ。境の港にでも行けば南蛮人なんかしょっちゅう見るぜ。

千歳:そうなんですか。

桃太郎:おう。

鉄斎:まあこれで、当初の目的も果たしたわけだ。

桃太郎:目的?

鉄斎:鬼退治に来たんだろうが。

つまり、鬼なんか最初からいなかったんだ。だから退治の仕様もないし、なら仕事はこれで終了ってこと。

桃太郎:そういえば、そんな話だったな。

 

  桃太郎、ふと気づいたよう顔をあげ、

 

桃太郎:ん?ちょっと待て。

「目を爛爛と光らせた、見上げるような大男」ってのはお前の親父、「女の小鬼」はお前自身だとしてだな。

じゃあ、「真っ黒くて長い爪をした、樹の上を飛び歩く鬼」ってのは誰なんだ?お前のお袋か?

千歳:なんですか?それ・・・

桃太郎:そういうのに襲われたって奴がいたんだ。

千歳:そんな!私、人を襲ったりしません!

桃太郎:そうだろうなあ・・・・

鉄斎:どうもおかしいね。

 

  考え込む鉄斎。

  洞窟の外から爆音が響く。

  顔を見合わせる桃太郎と鉄斎。

  外に向かって走り出す。

 

  ○洞窟/入口

 

  洞窟から走り出る一同。

  木立の向こうの夜空にあがる煙。

 

桃太郎:なんだ!?

千歳:うちの方だわ!

 

  ○千歳の家

 

  爆音。目を覚まし、飛び起きる狂花、月丸。

 

月丸:何じゃい!?

 

  壁をぶち破ったのは二丁の石火矢である。石火矢を抱えた男の間には、目を覆いたくなるほど派手な着物をきた、ケバケバシイ女(忍組のカシラ)がやたらと偉そうに立っている。

  その後ろに、黒ずくめの見るからに怪しい者どもがズラリと控えている。

 

カシラ:はァ〜い。コンバンワ。

月丸・狂花:・・・・・(目が点)

カシラ:お休みのところ悪いんだけど。千歳ちゃんはいるかしら?

 

  月丸・狂花、呆気にとられて言葉が出てこない。

  襖を開けて、寝惚け眼の仁太が出てくる。

  カシラ、部屋の中(と言っても半壊で、青天井になっている)をつかつかと歩いて仁太に近づく。

 

カシラ:あら〜可愛い。坊やいくつ?

 

  仁太、カシラに顔を近づけられて声にならない悲鳴を上げる。

  洞窟から走ってきた桃太郎たち、半壊した家を見て目を丸くする。

 

桃太郎:なんだァ!?

千歳:仁太!

 

  千歳に走り寄る仁太。狂花・月丸も、桃太郎と鉄斎に走り寄る。

 

カシラ:まああ・・・失礼ね。乙女の顔見て逃げ出すなんて。

狂花:あんたら、一体どこ行ってたのさァ!

鉄斎:ちょっとな。それより、この有様は・・・・

桃太郎:何者だ手前ッ!

カシラ:あら、人に名前を聞くときは先に名乗るものじゃなくって?

桃太郎:夜中に人んちブチ壊しに来るような奴に名乗る名はねえよ!

鉄斎:あからさまに怪しいよな。

カシラ:うるさいわねえ。あたしだって好きでこんな時間に働いてるわけじゃないのよ。残業代出ないんだからね。

さっさと帰って寝たいの。千歳ってのはどれ?

 

桃太郎、千歳をかばうように前に出る。

 

カシラ:ああ、その娘ね。はじめまして、

あたしはあんたに用があるの。

探したわよ〜。まさか、こんな山奥に住んでるだなんてねえ。

 ああ、別に怖がらなくってもいいのよ。キリシタンの財宝とやらを頂ければ、すぐに帰りますからね。

狂花:キリシタンの財宝!?

鉄斎:千歳さんの言ってた妙な奴らって・・・・

桃太郎:こいつらか!?

カシラ:あんたのお父さんには世話になったわよぉ。どうしても宝は渡せないってゴネてね。姿をくらましやがった。

この山に逃げて来たってのを突き止めてから、こっちもがんばって財宝の隠し場所を探してみたんだけど、見つからないのよ。

もうしょうがないから、本人に聞いちゃった方が早いと思って。

教えてくれるわよね?

千歳:誰が教えるものですか!

カシラ:まああ、可愛げのない小娘ね。いいわ。それなら言いたくなるようにしてあげようじゃないのっ!

 

  カシラ、パチンと指を鳴らす。

  後ろに控えていた黒ずくめの忍たち、一斉に腕をふるう。すると、袖口から金属の鎌のようなものが伸びる。

 

桃太郎:成程。黒くて爪の長い鬼ってのはこいつらのことか?

鉄斎:宝を探して山をうろついてる所を見た村人が鬼と勘違いした。行方不明の人たちは・・・・

桃太郎:・・・・口封じか。

鉄斎:おそらく。

 

  忍たち、桃太郎たちをとり囲む。

 

桃太郎:(千歳に)さがってな。

 

  桃太郎、抜刀の構えで腰に手をやるが、すぐに帯刀していないことに気付く。

 

桃太郎:げ。

鉄斎:おい、桃太郎・・・・

桃太郎:そうだ。刀置きっぱなしだった。

鉄斎:お前、肝心な時に・・・!

カシラ:何をごちゃごちゃ言ってんの?

(忍たちに)それ、さっさとやっちゃいな!

 

  忍たち、一斉に桃太郎たちに襲いかかる。

  仁太を抱きしめて縮こまる千歳。

 

桃太郎:でええいっ!

 

  桃太郎、そこいらにあった鍋からお玉を引っつかみ、忍の刃を受ける。

  月丸は襲い来る忍達の間をおちょくるように飛び回り、鉄斎はほとんど動かずその場でひょいひょいと攻撃を避けている。

  狂花は崩れた家の材木をぶん回して、何人もの忍を一度に薙ぎ倒す。

 

狂花:おおりゃあっ!

 

  忍たち、予想外の反撃にたじろぐ。桃太郎、お玉を手に見得を切る。

 

桃太郎:どうした!もう終いか!?

カシラ:くッ・・・!

 

  カシラ、ぎりりと歯噛みをして、

 

カシラ:その減らず口をふさいでやるよ!(忍に)発射用意!

 

鉄斎:まずい!皆逃げろ!

 

カシラ:点火!

 

  石火矢が火を噴く。

  散り散りに飛んで逃げる桃太郎たち。

  辺りに立ち込める爆煙で、何も見えなくなる。

 

桃太郎:おい!お前ら大丈夫か!?

狂花:なんとか・・・

月丸:一応生きてるっす〜。

桃太郎:千歳!

千歳:だいじょうぶ・・・です。

 

  千歳、咳き込みながら辺りを見回して、

 

千歳:仁太!仁太がいない!

桃太郎:何ィ!?

 

  カシラの高笑いが響く。煙が徐々に晴れ、周りが見えるようになる。

  仁王立ちしたカシラ。小脇に仁太を抱えている。

 

千歳:仁太!

カシラ:この坊やは頂いてくよ!

返して欲しけりゃ城までキリシタンの財宝を持ってくることだ!

ただし、うちの殿様はもうしびれを切らしてなさるからね。さっさとしないと、生きた坊やに二度と会えなくなるよ!

 

桃太郎:このッ・・・!

 

  桃太郎、カシラに駆け寄ろうとする。

が、忍たちの投げた苦無を避けて飛び退いた隙に、忍たちは撤退してしまう。

 

カシラ:城で待ってるよ!

 

  あとに残された桃太郎たち。

  千歳、地面に崩おれる。狂花、それを支える。

 

千歳:仁太・・・・!

狂花:千歳さん!

 

  桃太郎、瓦礫の中から刀を拾い出す。

 

桃太郎:おい千歳。城ってのはどっちだ。

鉄斎:行くのか?

桃太郎:当然だろ?

千歳:でも、宝を渡すわけには・・・・!それに、あんなの敵うわけないです!

桃太郎:千歳。

 

  千歳、涙に濡れた顔を上げる。

振り向いた桃太郎。サッと風が吹き、雲が晴れる。

  月を背負い、不敵に笑う桃太郎。

  

桃太郎:仁太を迎えに行くぞ。

千歳:でも・・・・

桃太郎:なあに、キリシタンの宝だか何だか知らねえが、あいつらに渡す事ぁねえよ。

千歳:でも・・・・

桃太郎:大丈夫だ。信じろ。

千歳:なんで・・・なんでそこまでしてくれるんですか。こんな、見ず知らずの私のために・・・・

桃太郎:飯が旨かったからだ!

鉄斎:一宿一飯の恩義というやつだな。

狂花:それに、もう見ず知らずじゃあないよゥ。

月丸:乗りかかった船って奴でさ。

千歳:・・・・ありがとうございます・・・・!

桃太郎:そいじゃ一丁、行ってくっか!

鉄斎・狂花・月丸:応!

 

  ○城/門前

 

  門前で居眠りしている兵士。

突然、城内に爆音がとどろきわたる。

  兵士、驚いて飛び起きる。

 

兵士:な、何だァ!?

 

  ○城/城壁の一角

 

  もうもうと立ち込める煙。その中に佇む鉄斎。

  両手に焙烙火矢。顔には黒眼鏡をかけている。

  桃太郎・千歳、少し遅れてやってくる。

 

桃太郎:(ムセながら)やり過ぎじゃねえか!?

鉄斎:ちょっと火薬が多かった、かな?

 

  異変に駆けつける兵士たち。

 

兵士:何事だ!

兵士:曲者か?

桃太郎:その通り!曲者さまのお通りだ!

 

  叫んで斬り込んでいく桃太郎。電光石火で兵士たちの間を通り抜けると、カチンと刀をおさめる。

  一瞬のち、兵士たちのマゲがぼとぼとと落ちる。

 

兵士:うわああっ!?

桃太郎:行くぞ!

 

  後ろに呼びかけ、走り出そうとする桃太郎。

  その行く手を阻むように、忍たちが現れる。

 

桃太郎:出たなこの野郎。どいつもこいつもおんなじ成りしやがって・・・・鉄斎!千歳を頼む!

鉄斎:頼まれた。

桃太郎:さあて・・・イの一番に手前の胴体とおさらばしてェのは、どいつだ・・・・?

 

  桃太郎と忍たち、睨みあう。

 

  ○城/地下牢

 

  地下牢までは、まだ地上の混乱ぶりは届いていない。

  牢に放りこまれ、隅っこで丸くなっている仁太。

  見張りの牢番が退屈そうにしているところに、狂花がおにぎりとお茶の載ったお盆を持ってやってくる。

 

狂花:もしもし、お夜食を持って参りました〜。

牢番:お、気がきくな・・・

 

  狂花、牢の中をチラッと見て仁太の姿を確認し、お盆を牢番の前の机に置く。

 

狂花:遅くまでお勤めご苦労さまですぅ。

牢番:まったくだ。残業手当くらい出して欲しいもんだよな。

 

  牢番、おにぎりを食べ始める。

 

狂花:あらっ、お前さん、

牢番:なんだ?

狂花:こんなところにご飯粒が・・・

 

  狂花、顔を必要以上に近づけて、牢番の頬に触れる。

  ドギマギする牢番。どすっという鈍い音がして、白眼をむく。

  そのまま地面に倒れる牢番。

  狂花があて身を入れたのである。

 

狂花:さァて、鍵は、っと・・・

 

  牢番の懐を探り、鍵束を取り出すと、仁太の入った牢の錠前を開ける。

  顔を上げる仁太。

 

狂花:おまたせェ。姉ちゃんと一緒に迎えにきたよ。

 

  仁太の顔がぱっと輝く。が、狂花の背後を見てサッと顔色をかえ、ぱくぱくと口を動かして何事か狂花に伝えようとする。

 

狂花:え?なんだい?・・・・う・し・ろ?

 

  振り返った狂花、何者かに殴られて倒れる。

  ブラックアウト。

 

  ○城/庭

 

  一方、城壁を壊して侵入した桃太郎たち、忍たちと戦っている。

  桃太郎の剣と、鉄斎の爆弾で、城内は蜂の巣をつついた様な大騒ぎとなっている。

 

カシラ:そこまでだよ!

 

  前方に、カシラが立っている。

  その隣には、兵士に拘束された狂花と忍に捕まった仁太。

 

桃太郎:狂花!

千歳:仁太!狂花さん!

狂花:桃太郎、鉄斎、ごめんよう〜。

桃太郎:手前なにアッサリ捕まってやがんだ!

鉄斎:これじゃあ陽動作戦の意味がないなあ。

千歳:そんなこと言ってる場合ですか!?

カシラ:こいつらの命を助けてほしけりゃ、財宝の在り処を言うんだよ!

桃太郎:っの野郎・・・汚えぞ!

カシラ:なんとでも言いな!

 

  その時、あらぬ方向から手裏剣が飛んでくる。

気配を察したカシラ飛び退く。

カシラの頬をかすめて地面に刺さる手裏剣。

 

カシラ:誰だっ!

 

  月丸、屋根の上に現れる。

 

月丸:ありゃ、外しちまいやしたか。

カシラ:ふん、こんなもん・・・・

 

  カシラ、思わず己の頬を撫でる。

  つつ、と血が一筋滴る。

 

カシラ:ああっ!よくも乙女の顔に傷をつけてくれたね!

桃太郎:どこが乙女だどこが!お前に比べりゃ狂花の方がまだ女に見えるぞ!

カシラ:どういう意味よ!?

鉄斎:そりゃあ・・・

桃太郎:そー見えてもそいつは男だからな。

カシラ&兵士:へ。

 

  兵士、己の腕の中の狂花を見る。

 

狂花:(シナを作って)そんなに見つめちゃイ・ヤ。

兵士:うわあっ!(思わず手を放す)

カシラ:あっ、馬鹿!

 

  一瞬の隙をついて、狂花は兵士を投げ飛ばして逃げる。

  桃太郎、忍に向かって斬りかかる。

  月丸、忍の手から仁太を奪い返す。

 

桃太郎:たしかに、返してもらったぜ!

 

  鉄斎、カシラたちに向かって爆弾を投げつける。

  爆煙を背に逃げだす桃太郎たち。

 

カシラ:追え!追えーッ!

 

  走る桃太郎たちの背後で、城の到る所から爆発が起こっているのが見える。

 

桃太郎:(走りながら)どんだけ仕掛けて来たんだ・・・?

鉄斎:(走りながら)えーと、裏門と中庭だろ、食堂に砲台に、それから各階廊下にひとつずつ、でもって火薬庫にも・・・

 

  ひときわ大きな爆発が起こる。

 

桃太郎:・・・・成程。

 

  ○城/中庭

 

  右往左往する兵士たち。

 

カシラ:城が!城が〜!

 

  ○城を見下ろす丘の上(夜明け)

 

  大騒ぎの一夜が明けて、さわやかな朝。

  さんざん爆発した城は、火の気こそ既にないが、もはや原型を留めていない。

  一同、丘の上に座って、空け初めた空をぼんやり眺めている。

 

狂花:終わったねェ。

鉄斎:終わったな〜・・・・。

月丸:そういえば、キリシタンの財宝って結局何だったんすか?

 やっぱり、金の延べ棒とか?

千歳:・・・・知りたいですか?

月丸:知りたいっす。

千歳:じゃあ、特別に・・・。

 

  言って千歳、懐を探る。見守る一同。

 

千歳:はい。

月丸:・・・・え?

狂花:・・・・これが、宝?

千歳:そうです。これが、キリシタンの宝物です。

 

  千歳が懐から引っ張り出したのは、古ぼけた小さな十字架だった。ずっと首から下げていたらしい。

金属の鎖が付いており、くすんだ色のビーズがあしらわれている。

桃太郎、ひょいと手に取って、

 

桃太郎:なんだこりゃ?

千歳:ロザリオ、というんですよ。

桃太郎:ろざりお?

千歳:キリシタンが、御祈りの時に使う道具です。

狂花:お数珠みたいなもんかい?

月丸:これのどこが宝物なんでやんす?

狂花:うーん、この飾りに使われてるのは、みんな焼き物かびいどろの球みたいだからねえ・・・とんぼ玉みたいなもんか。金で出来てるわけでもなさそうだし・・・

千歳:ええ。これ、素材は真鍮だし、飾りもいま狂花さんがおっしゃった通り、特に高価なものじゃありません。

桃太郎:そんなら、一体どこが宝物なんだ?

千歳:この真ん中のところに、ひときわ大きなびいどろの玉がはまっているでしょう?この中に・・・

 

  桃太郎、ロザリオに目を近づけてよくよく眺める。

 

桃太郎:・・・なんか、細い・・・糸みたいのが入ってるぞ?

千歳:これが、宝なんです。

桃太郎:これが!?

千歳:これ、イエズスの髪の毛なんですって。

桃太郎:いえずすってなあ、どこのどいつでえ?

狂花:伴天連の神さんだろう?

千歳:イエズスは神さまじゃなくって、人間ですよ。神様の御使いなの。

桃太郎:えらいのか?

鉄斎:・・・聖遺物か。そりゃキリシタンにとっちゃ何物にも代えがたい宝かもしれんが、それ以外には・・・・無用の長物だろうなあ。

月丸:まさに長物ですな。

千歳:本物かどうかは、わかりませんけどね。

 

  ○街道(同日昼)

 

  旅装を整えた桃太郎たち、そして千歳と仁太。

  千歳は前髪を上げ、顔を出している。

  道行く旅人が、時々振り返って千歳を見る。

  別れを惜しむ一同。桃太郎だけは、千歳たちに背を向けてあさっての方向を見ている。

 

千歳:それじゃあ、ここでお別れですね。

鉄斎:そうですね。

狂花:でも、本当に二人だけで大丈夫かい?なんならもう少しついてっても・・・

千歳:いえ。皆さんには、皆さんの道があるんだし・・・それに、あんまり引き延ばすと・・・・余計に淋しくなっちゃいますから。

 

  淋しそうにうつむく千歳。

  桃太郎、背を向けたまま言う。

 

桃太郎:なあに、今生の別れってわけでもねえよ。

千歳:桃太郎さん・・・・

桃太郎:生きてりゃまたどっかで会えらあ。

千歳:・・・・そうですよね!

 

  桃太郎の言葉に、千歳笑顔でうなずく。

 

  ○街道の入口

  

  千歳たちに別れを告げ、歩き出す桃太郎たち。

  千歳、その後ろ姿が見えなくなるまで見送っている。

 

  ○街道沿い

 

  何となく黙ったまま歩く桃太郎たち。

 

狂花:よかったのかい?

桃太郎:何がだ。

狂花:千歳さんさ。気に入ってたんじゃないのかい?

桃太郎:よせやい・・・

鉄斎:別に、一緒に行ったってよかったんだぞ。

桃太郎:いいんだよ。

 

 

  ○街道のどこか

 

  仁太と二人、笑いながら道をゆく千歳。

 

  ○街道沿い

 

桃太郎:・・・いいんだよ。

 

  桃太郎、空を見上げて口の端だけで笑う。

 

鉄斎:ま、俺たちはしょせん曲者だからな。

桃太郎:なぁに。曲者、上等だ!

 

  桃太郎たち、のんびりと街道を歩いてゆく。

  空は、千歳の瞳のような青色である。

 

                 (完)

 

 

NOTE:某アニメ用脚本コンテストに応募した脚本。

応募規定そのままに、あらすじとか付いてます。

特に受賞とかしなかったけど、思い出深い作品なのでこちらに掲載。

勢いだけでかなりアレなスジだし、青いなと思うが、綺麗にまとまったラストは好き。

キャラクターは割と気に入っているので、そのうち別の形で出てくるかもしれない。

 

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