「浴槽でクジラを飼う男の話」
男 わたしは浴槽でクジラを飼っています。いえ、そんな大層な御殿じゃない。
1LDKのマンションの、たった一つしかない浴槽で、です。
おかげでこっちは連日の銭湯通い・・・・大丈夫、自分でも呆れています。そのくらいの常識と分別はある。
実を言うと、本当の目的はクジラじゃないんで・・・・ええ、肥らせて肉を食おうとか、そういうことじゃないんです。
実は、わたしが用のあるのは、クジラの胃袋なんです。
胃袋の中には何があるって?そりゃあんた、ゼペットじいさんに決まってるじゃないか!
・・・・・・・・ええ、すみません。つい、興奮して・・・・
本当に申し訳ない。わたしの話を聞いてくれるのはもうあんたくらいのもんです。
本当に、感謝してるんですよ・・・・ええ。
それで。それでね、ゼペットじいさんですよ。世紀の人形作り、木偶人形の創造主!
あんまり罪深い腕前のせいで、造った人形にこどもの魂が宿ったとかいう・・・・
あのゼペットじいさんです。わたしはね、彼にもう人形を作らせないために、
二度と自然の神経を逆なでするようなことがないように、彼を見張ってるんです。
え?そりゃ、まだほんのこどもですよ。
あんな小さなクジラの腹に、大の大人が入るはずない。でしょう?
しかし、クジラの成長は早いからね・・・・なんてったって地球最大の哺乳類の仔どもなんだ。
いまに、浴槽などははみ出してしまう・・・
そうなったら、また引越しをしなくちゃならない。
プール付きの家なんて借りられようはずもないのだから、せめて小さくても庭のある家に越していこう。
そうして、芝をくりぬいて池を造るんだ。水を流して、そのなかにあのクジラを放す・・・
クジラに罪はないんです。クジラごと生き埋めにしてしまうことは出来ない。
だから、そのうちゼペットの奴が大きくなるのを待って・・・きっと奴はピノッキオを造るに違いない。
だから・・・あのいやらしい木偶に手伝わせてクジラの腹から抜け出して来るに違いない。
だから・・・そしたら・・・出てきたところを、この手斧で・・・・そう、良く砥いでおかなくちゃ。もうすぐ出てくるに決まってるんだから・・・・
Note:戯曲と見せかけて散文詩。
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